「AIが進化したら、データエンジニアの仕事ってなくなるんじゃないの?」
SIerで働いている人からこの質問をよく受けます。正直に言うと、私も転職前は同じ不安を持っていました。
実際にデータエンジニアとして働いてきた肌感覚で言うと、今のところ仕事は減るどころか増えています。ただし「だから安泰です」と言い切るつもりはありません。AIで楽になった部分の裏で、これまで自分の付加価値だと思っていた作業が一気に陳腐化していく感覚も同時にあります。仕事が「増える」のと、自分という個人が「淘汰されない」のは別の話だ、というのが正直なところです。
この記事では、AI/LLMの普及によってデータエンジニアの業務がどう変化しているか、5つの具体的な変化を、不安な面も含めてお伝えします。なお、私はSIer出身→事業会社のデータエンジニア→現在はデータアーキテクト、という経路で、年収という観点だと最初の転職でSIer5年目400万から事業会社500万に動いた人間です(実額の根拠は後半で触れます)。
> このページについて:本文の後半に求人エージェントへのリンク(PR)を1か所だけ置いています。私自身が転職時に求職者として実際に利用したサービスのPRを含みます。読み終わって「市場価値を一次情報で確かめてみるか」と思った方向けに置いているもので、それ以外に特定サービスへ急かす意図はありません。
なぜAI時代にデータエンジニアの需要が増えるのか
まず前提として、なぜ需要が「減る」のではなく「増える」のかを整理します。
生成AIやLLMの精度は、学習データの品質に直結します。どんなに優れたAIモデルを導入しても、「データがない」「データが汚い」「データがバラバラに散らばっている」状態では使いものになりません。
PwC Japanの調査(2025年)によると、日本企業の73%が生成AIの効果を確認している一方で、多くの企業が「データ基盤の未整備」を最大の障壁として挙げています。
つまり、AIを活用したい企業が増えるほど、データ基盤を構築・運用できるデータエンジニアの需要は上がる。この構造は当面続くと見ています。
ただ、ここで一つ留保を入れておきます。「職種全体の需要が増える」ことと、「いまのあなたのスキルセットがそのまま評価され続ける」ことはイコールではありません。需要が増える領域はAI/LLM寄りに偏っていくので、構造化データのバッチ処理だけをやってきた人が、何もアップデートせずに今の市場価値を保てるかというと、それは怪しい。需要曲線が右肩上がりでも、自分が乗っている地点が右下にずれていけば、相対的な価値は下がります。次章以降は、この「乗り換え」が必要になる具体的なポイントとして読んでもらえればと思います。
変化1: SQLを書く時間が減り、設計を考える時間が増えた
一番実感している変化がこれです。
以前は1日の業務時間の30〜40%をSQLの記述やdbtモデルの実装に使っていましたが、今はAIアシスタント(GitHub Copilot、Cursor等)がかなりの部分を補助してくれます。
たとえば、dbtのステージングモデルを作る場合。以前は手動でカラムマッピングを書いていましたが、今はソーステーブルの定義を渡せばAIが下書きを生成してくれます。自分の仕事は「この変換ロジックで正しいか」を判断して、ビジネスルールに合わせて修正すること。
SIer経験者にとって朗報なのは、「判断力」の価値が上がっていること。 SIerで培った要件定義の力、つまり「何をどう作るべきか」を考える力が、AI時代のデータエンジニアでは最も重要なスキルになっています。
ただ、これは裏を返すと怖い話でもあります。「速くSQLを書ける」「dbtモデルをたくさん量産できる」という、これまで多くのエンジニアが自分の強みにしてきた手の速さは、AIによって急速に差別化要因でなくなりつつあります。私自身、SQLの記述に使う時間がかつての1日30〜40%から確実に減っていて、正直「この部分で食べてきたのに」という戸惑いはあります。判断力にシフトできた人には追い風ですが、コーディングのアウトプット量を自分の価値の中心に置いてきた人にとっては、足元が崩れていく変化でもある。両方の側面があると思っています。
変化2: 「非構造化データ」という新しい領域が生まれた
従来のデータエンジニアリングは、RDBやCSVなどの「構造化データ」が中心でした。テーブル設計をして、ETLパイプラインでデータを変換して、DWHに格納する。SIer出身者にとっては馴染みのある世界です。
ところがLLMの普及により、PDF、議事録、Slack履歴、メール、画像といった非構造化データを扱う需要が急増しています。
社内のナレッジをLLMに学習させたい。お客様からの問い合わせ履歴をAIで分析したい。こうした要望に応えるには、非構造化データを収集・前処理・ベクトル化して、検索可能な形に整えるパイプラインが必要です。
これは本質的にはETLと同じ考え方です。「データを集めて、変換して、使える場所に格納する」というデータエンジニアリングの基本は変わっていない。 扱うデータの種類が広がっただけなんですよね。
変化3: RAGの構築・運用がデータエンジニアの仕事になりつつある
RAG(Retrieval-Augmented Generation)という言葉を聞いたことはありますか?
簡単に言うと、LLMが回答する際に「社内データベースから関連情報を検索して、それを参考に回答を生成する」仕組みです。ChatGPTに自社の業務マニュアルを読ませて回答させるイメージに近いです。
このRAGを「作る」のは比較的簡単です。LangChainやLlamaIndexといったフレームワークを使えば、プロトタイプは数日で作れます。
問題は「運用する」ほうです。
- データが古くなったら自動で更新するパイプラインが必要
- データの品質(重複、欠損、矛盾)を継続的にチェックする仕組みが必要
- 誰がどのデータにアクセスできるかの権限管理が必要
これ、まさにデータエンジニアが日常的にやっていることそのものです。ETLパイプラインの設計・運用、データ品質管理、権限管理。RAGの裏側はデータエンジニアリングの塊なんですよね。
実際に、データエンジニアとLLMエンジニアを兼務するポジションの求人も増えてきています。
変化4: dbt開発がAIエージェントで半自動化されつつある
これは現場で一番ホットな話題です。
実際に日本企業でも導入事例が次々と出てきています。
Ubie: 30分のミーティング中にCI済みPRが完成
3,000以上のdbtモデルを運用するUbieでは、Cursor Agentを導入してdbt開発を半自動化しています。
具体的なワークフローはこうです。エンジニアがSQLを書いてAIに渡すと、テンプレート生成→dbt run→schema.yml更新→テスト実行→ドキュメント更新→PR作成までをAIが一気に実行。8ステップのうち、人がやるのはSQLの記述だけ。
印象的なのは、「30分のミーティングが始まる前にSQLをAgentに渡しておけば、ミーティングが終わる頃にはCI合格済みのPRが出来上がっている」という話。精度も8〜9割で期待通りのアウトプットが出るそうです。
オイシックス: 手動30分の回帰テストが1コマンドに
オイシックス・ラ・大地では、Claude Agent Skillsを活用して2つの作業を自動化しています。
1つ目はdbtモデル生成。「このSQLをdbtのモデルにして」と指示すると、AIが対話的にレイヤーや主キーを確認しながら、SQLファイル・schema.yml・ドキュメントを自動生成します。
2つ目が回帰テスト。以前は本番環境と開発環境のデータ差分を検証するのに、5ステップ・最大30分かかっていました。AIエージェント導入後は1コマンドで、差分サマリの生成からスプレッドシートへのエクスポートまで完了するようになっています。
MonotaRO: AIコードレビューが「昨日の発見」で賢くなる
MonotaROでは、Cline(VS Code拡張)でコード生成、GitHub ActionsでAIコードレビューという組み合わせで開発プロセスを構築しています。
面白いのは「知識循環メカニズム」。AIレビューで得た新しい知見が自動的に開発規約に反映され、翌日のAIレビューがさらに賢くなる仕組みです。個人の発見がチーム全体のAIを強化するフィードバックループになっている。
3社に共通するのは、AIに丸投げではなく、ルールや規約を先に整備した上でAIを使っていること。ガードレール(Linter、テスト)を併用することで精度を担保しています。
こうした事例を見ると、具体的にどんな作業がAIに置き換わっているかが整理できます。
| 作業 | AI化の状況 |
|---|---|
| dbtモデルのSQL記述 | AIが下書き生成→人がレビュー |
| Lintチェック・フォーマット | 完全自動化 |
| テストコードの生成 | AIが生成→人が確認 |
| PR作成・説明文の記述 | ほぼ自動化 |
| データモデルの設計判断 | 人がやる領域(AIは補助のみ) |
| ビジネスロジックの要件定義 | 人がやる領域 |
ここで重要なのは、「何を作るか」を決める仕事は人に残っているということ。AIは「どう作るか」は得意ですが、「なぜこのテーブルが必要か」「このデータをどう使うか」というビジネス判断はできません。
SIerで要件定義や基本設計をやってきた人は、この「何を作るか」を決める力を持っています。AI時代にこそ、その経験が活きるわけです。
変化5: 「AIエージェント基盤」という新しいインフラ需要
2025〜2026年にかけて、「AIエージェント」という概念が急速に広がっています。
AIエージェントとは、AIが自律的にタスクを実行する仕組みのこと。たとえば、「毎朝の売上レポートを自動生成して、異常があれば原因を分析してSlackに通知する」といったことをAIが自動でやってくれます。
このAIエージェントが正しく動くためには、リアルタイムで正確なデータにアクセスできる基盤が不可欠です。MCP(Model Context Protocol)という新しい標準規格も登場し、AIとデータ基盤の接続方法が標準化されつつあります。
つまり、AIエージェントが普及するほど、その裏側のデータ基盤を設計・運用するデータエンジニアの仕事が増える。これが「AI時代にデータエンジニアの需要が増える」もう一つの理由です。
SIerの経験がAI時代にこそ活きる理由
ここまで読んで、「自分のSIer経験は通用するのか?」と不安に思った方もいるかもしれません。
結論を言うと、SIerの経験はAI時代のデータエンジニアにとって強力な武器です。
| SIerで培ったスキル | AI時代のデータエンジニアでの活かし方 |
|---|---|
| 要件定義・基本設計 | AIが自動化できない「何を作るか」の判断 |
| RDB設計・SQL開発 | データモデリング、dbt開発のベーススキル |
| バッチ処理の設計・運用 | ETL/ELTパイプラインの設計 |
| 品質管理(テスト設計) | データ品質管理、dbt testsの設計 |
| ドキュメント作成力 | データカタログ、メタデータ管理 |
| プロジェクト管理 | データ基盤プロジェクトのリード |
AI時代に「不要になる」のは、単純なコーディング作業や定型的なテスト作業です。これらはAIに任せればいい。
一方で、「ビジネスの文脈を理解して設計判断する」「ステークホルダーと要件を握る」「品質基準を定義する」といった仕事は、AIには難しい。そしてこれは、SIerで日常的にやっていたことそのものです。
ただし、ここも片側だけ見ないようにしておきます。「SIer経験は武器になる」は条件付きの話で、無条件ではありません。要件定義や設計の経験があっても、それがウォーターフォール・SI文化の前提(重い工程、対顧客の調整、Excel設計書中心)に強く依存していると、事業会社のスピード感やクラウドDWH前提の開発にうまく接続できず、最初は持ち味を出しにくいことがあります。私も最初の転職活動で「とりあえず大手」とエージェントに登録した結果、担当者がSnowflakeを知らず、職務経歴の翻訳がかみ合わずに3か月ほど遠回りしました。SIer経験はそのままでは効かず、「AI/クラウド時代の文脈に言い換えて初めて武器になる」くらいに捉えておくほうが、過度な期待で転職して落ち込まずに済むと思います。
今から準備しておくべきこと
AI時代のデータエンジニアを目指すなら、以下の3つを意識しておくと良いです。
1. まずはデータエンジニアの基礎を固める。 SQL、dbt、SnowflakeなどのクラウドDWH。AI関連の技術はその上に乗るものなので、基盤スキルが先です。
2. AIツールを「使う側」になる。 GitHub CopilotやCursorを開発に取り入れる。AIを使いこなせるエンジニアと使えないエンジニアの生産性の差は、今後ますます広がります。
3. 非構造化データとベクトルDBに触れておく。 RAGの仕組みを理解して、pgvectorやChromaなどのベクトルDBを触ってみる。これだけで「LLM時代のデータエンジニア」としての市場価値が上がります。
ただし、これらを全部一人で先に学んでから動く必要はありません。基礎を固めつつ、残りは転職先の実務で身につけるほうが現実的です。とはいえ「実務で学べる環境かどうか」は会社によって差が大きく、求人票だけでは判断しづらいのも事実です。
年収で来た人に、年収の話を返しておく
この記事に「AI時代」「年収」あたりの検索から来た方も多いと思うので、私の実額をそのまま置いておきます。SIer5年目で約400万(基本給25万+残業3〜5万、賞与は基本給4ヶ月、手取りは月22万前後)。そこから事業会社のデータエンジニアに移って500万になりました。ただしこの500万も、最初のオファーは450万で、交渉して上げてもらった額です。黙っていれば450万のままだったはずで、「DEに転じれば自動的に上がる」というほど甘くはありませんでした。
AIスキルがそのまま年収に直結するかも、現時点では正直まだ読み切れません。需要が伸びている領域であることは確かですが、相場が固まり切っていないぶん、提示額の幅が大きく、企業側がAIスキルをどう値付けするかにバラつきがあります。だからこそ、自分の経歴がいまの市場でいくらと見られるのかは、一般論ではなく一次情報で当たってみるしかない、というのが実感です。
もしその一次情報を取りに行くなら、IT・データ職に強い転職エージェントが役に立ちます。私が転職時に実際に使ったサービスのひとつが、下記のレバテックダイレクト(PR)です。自分の経歴が企業からどう評価されるか、提示額を一次情報で見られたのが交渉の材料になりました。とはいえ私が「ここだけ使え」と言うつもりはなく、求人の量感や提示レンジを確かめる材料として、自分で複数社を比べる前提で見てみてください。私自身も最初の転職時にIT特化のエージェントを3社使っていて、1社目で遠回りしたぶん、合わなければ早めに乗り換える・並行して使う・担当との相性で判断する、を勧めます。1社に依存しないほうがいいです。
レバテックダイレクト(PR)— 市場価値を一次情報で確かめる入口の一つ
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まとめ
AI時代にデータエンジニアの仕事は「なくなる」のではなく「変わる」。そして変化の方向は、SIer経験者にとって有利な方向です。
- SQLを書く時間は減り、設計判断の時間が増える
- 非構造化データやRAGなど、新しい領域が広がっている
- dbt開発はAIエージェントで効率化が進んでいる
- AIエージェント基盤という新しいインフラ需要が生まれている
- SIerの要件定義力・設計力がAI時代にこそ活きる
同時に、楽観だけで締めるのもフェアではないと思っています。職種としての需要が増えても、コーディングの手の速さは差別化要因でなくなり、SIer経験はそのままでは効かず、AI/クラウドの文脈に言い換えられた人だけが評価される——というのが、ここまで書いてきた「もう一つの側面」です。変化の中にチャンスはあるけれど、それは自動的に転がり込んでくるものではなく、乗り換えのコストを払った人に来るもの、というのが私の今のところの結論です。
(このまとめでは特定サービスへの追加の誘導はしていません。リンクは本文中の1か所だけです。)
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